もうすぐペッパーの誕生日。
昔は勝手に自分でプレゼントを買って事後報告していたペッパーだが、さすがにそんなことはもうさせないぞ。
が、一体何をしたら喜んでくれるんだ?
直接本人に欲しい物を聞けばいいのだろうが、彼女を驚かせてやりたいし…。
この数週間散々悩んだトニーだが、やはりあの手しかないな…と、電話をかけ始めた。
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そして誕生日当日…。
いつものようにジャーヴィスに起こされたペッパーは、トニーの腕の中から出て起きようとした。
が、
「今日はダメだ…」
寝ぼけ声のトニーがペッパーを抱きしめて離そうとしない。
「トニー!起きないと遅刻しちゃうわ…」
トニーは体を起こし、遅刻すると騒ぐペッパーの上に乗ると、彼女の口を唇で封じた。
「誕生日おめでとう、ペッパー。今日から2日間、休みを取ったから、デートしよう」
「え?」
そういえば、すっかり忘れていたけど、今日は誕生日だった…。
「まさか…忘れていたのか?!」
トニーはニヤニヤしながら起き上がると
「ほら、出かけるぞ。早く服を着て準備しろよ」
と言い残し、バスルームへと向かった。
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「で、どこに連れて行ってくれるの?」
「デートプランその一。まずは君の欲しい物をプレゼントする、だ」
トニーの運転する車は、おしゃれなショップの並ぶ通りで停まった。
トニーは1軒のショップにスタスタと入って行く。そこはペッパーが好きで頻繁に通っているショップだった。
「お待ちしておりました、スターク様。ポッツ様、いつもありがとうございます」
顔なじみの店員がニコニコ笑いながら2人を出迎えてくれた。
いつも賑わっているのに、今日は誰もいない。
「あら?いつも混んでるのに…」
ペッパーがつぶやくとトニーは
「いつもゆっくり見れないとボヤいてただろ?今日は貸し切りだ。ゆっくり見てくれよ」
と、ウインクした。
「貸し切りって…トニー…」
まさかそこまでしているとは…。ペッパーが目を白黒させていると、トニーは店内を物色し始め、
「これなんか似合うんじゃないか?ほら、いろいろ試着してみろ」
と、次々と洋服をペッパーに渡し始めた。
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3時間後…
試着室で何十着もの洋服やたくさんの靴やアクセサリーに囲まれたペッパー。
「あーん、どれにしよう…」
あれからいろいろ試着したものの、どれも捨て難くペッパーが迷っていると、試着室のドアが開きトニーが顔を覗かせた。
「決まったか?」
「トニー…どれにしようかまだ迷ってて…」
困った顔をしたペッパーにトニーは
「何だ。別に一着にしろとは言ってないぞ…」
と言い、店員に向かって
「試着室にあるもの、全部だ」
と言ったのだった。
「ぜ、全部?!」
トニーの言葉に驚くペッパー。
「と、トニー!全部だなんて…。お洋服だけじゃないのよ…靴も鞄もアクセサリーも…」
さすがにこれを全部買ってもらおうとは思ってもいなかったため、ペッパーは慌てて山の中から選ぼうとした。
が、トニーはペッパーを試着室から引っ張り出し抱きしめると耳元で囁いた。
「遠慮するな…。言っただろ?君の欲しい物をプレゼントするって。それに……」
小声でよく聞こえなかったけど…今…今…さりげなく、『そのうち妻になるんだし…』って言わなかった?!
真っ赤になったペッパーが問いただそうとしたその時、タイミング良く店員が現れた。
トニーは店員から受け取ったカード(アイアンマンの絵柄のスターク社の、もちろんブラックカード)をしまいながら、
「荷物は明日、家へ届けてくれ…」
と言うと、ペッパーの方にクルリと向き、
「さあ、腹が減ったな。何か食べよう」
と、店の出口に向かった。
「何が食べたい?」
通りをぶらぶらと歩く二人。
「あら?ランチの場所は決めてなかったの?」
笑いながらペッパーが尋ねると
「ここは何でもあるだろ?君が食べたい物を食べようと思って、決めてない」
トニーはペッパーの手を固く握って答えた。
おしゃれなカフェもいいけど…あたりをキョロキョロと見渡したペッパーは
「あ!あそこに行きましょ!」
と、一軒の店を指差した。
「ハンバーガー?何もそんな所でなくても…」
不満顔なトニーだが、ペッパーは嬉しそうに手を引っ張り店へと向かった。
店内でチーズバーガーを食べる二人。何だかんだ言っても、大好物のチーズバーガー。トニーは2つ目にかぶりついた。
「なあ、何でここだったんだ?他にもあっただろ?」
まだブツブツ言うトニーにペッパーは
「だって、あなたが大好きな物を食べる時の顔って…幸せそうでカワイイんだもの…」
不思議そうな顔をするトニーにペッパーは嬉しそうに言った。
ハンバーガーで空腹を満たした二人は、海辺を歩き始めた。
「ねぇ、あなたのプランだと、次はどこへ行くの?」
トニーはペッパーの頬にキスをすると
「あそこの観覧車へ乗ろうかと思ってるんだが…」
と500mほど先にある大きな丸い乗り物を指さした。
「あら、あなたにしては上出来だわ」
クスクスと笑うペッパーに向かってトニーはニヤリと笑うと、ペッパーの手を引っ張り歩き出した。
しばらく歩いていた二人だが、周りにだんだんと人が集まってきたことに気付いた。
というのも、オフホワイトのシャツにブラックの細身のジャケットは、トニーの引き締まった身体を引き立たせ、否応がなしに注目を集めていたし、それに加えあのトニー・スタークだからなおさらだ。
あっと言う間に人だかりができ、トニーは黄色い声とともに(主に女性たちに)囲まれてしまった。
「キャー!!トニー・スタークよ!!」
「キャー!!!!」
群がってきた女性たちはペッパーを押しのけトニーに近づこうとした。
「きゃっ!」
誰が押したのかは定かではないが、ペッパーは小さく悲鳴をあげ転倒してしまった。
「ペッパー!!」
小さな声だが、ペッパーの悲鳴を聞いたトニーが慌ててペッパーの元へ駆け寄った。
「大丈夫か?」
「えぇ…でも…足をひねったみたい…」
見るとペッパーの白く細い右足首は赤く腫れている。
二人を取り囲んだ群衆をトニーはジロっと睨むと
「今日は大切な日なんだ。邪魔しないでくれ」
そう言い捨てると、ペッパーを抱きかかえ、車へと向かった。
**********
トニーはペッパーを車に乗せると、次の目的地へと車を走らせた。
運転しながら足首を気にするペッパーを心配そうに何度も見るトニーだが、その視線に気づいたペッパーは
「大丈夫よ、トニー。少しひねっただけだから。心配しないで」
と笑顔をトニーに向けた。
「だが…。せっかくの誕生日なのに、すまなかったな」
申し訳なさそうな顔をするトニー。
「あなたが謝ることじゃないわ。それより、次はどこへ連れて行ってくれるの?」
ペッパーは話の内容を変えるように尋ねた。
「次は、君が行ってみたいと言っていた所だよ。楽しみにしておいてくれ」
そう言うと、トニーは黙ってしまった。
車が停まったのは、予約は1年先まで常にいっぱい、そして1日数組しか宿泊できない、今女性の間で一度は泊まってみたいと話題の海辺に建つホテルだった。
「ここって…予約するの大変だったでしょ?」
フロントで手続きを済ませ部屋へと案内される途中、こっそり聞くと
「君の喜ぶ顔を見られるのなら、何てことないさ…」
とトニーは笑って答えた。
「お先にどうぞ、お姫様」
ドアを開け、おどけたようにおじぎをするトニーにペッパーは
「何、それ?」
とおかしそうに笑った。
オーシャンビューのその部屋は、大きな窓からは海が見え、全面ガラス張りのジャグジーに入りながらも景色が楽しめるという、ホテル内でも一番人気の部屋だった。
「すごい…」
あまりに豪華な憧れの部屋に目を丸くしてあちこち見て回っていたペッパーだが、ふとベッドの上に置かれているものに気付いた。
そこには、赤いリボンのかかった白い箱と、大きな赤い薔薇の花束が置いてあるではないか。
「トニー…これ…」
「誕生日プレゼントだ。気に入ってくれればいいんだが…」
窓辺に置かれたソファーに座り、ペッパーを見つめるトニー。
「すごい花束!もしかして私の年の数だけあるの?でも…プレゼントって…。もうたくさんもらってるのに…」
花束を手に取り申し訳なさそうにトニーを見つめるペッパー。
トニーは立ち上がるとペッパーが腰かけたベッドの隣に座り、
「これは私が選んだ分だ。開けてみてくれないか?」
とペッパーの手の上に箱を乗せた。
ペッパーがリボンを解き、箱を開けると、箱の中には大きなサファイアの付いた指輪とグリーン・サファイアのネックレスが入っていた。
「素敵…!!トニー!ありがとう!!!」
ペッパーはトニーに抱きつき、顔中にキスをした。
「そんなに喜んでくれるなんて…嬉しいよ」
ほおっておくと永遠に続きそうなペッパーのキス攻撃から逃げるようにトニーは立ち上がると、
「さぁ、着替えて。ディナーを食べに行こう。服は、バスルームに掛けてあるからな」
と、自分も別のバスルームへ着替えに向かった。
え?!服まで用意してあるの?!トニーったら…どれだけ前から用意していたのかしら…。
用意周到なトニーの優しさに思わず涙がこぼれたペッパーだが、涙を拭きとるとバスルームへ向かった。
トニーが用意してくれていた服は、ペッパーの美しい身体のラインを引き立たせるには十分な黒のロングドレスだった。
「用意できたか?」
トニーが、バスルームの入り口で声をかけた。
トニーはペッパーが誕生日にプレゼントした薄いブルーのシャツに身を包んでいた。
ペッパーの姿を見たトニーは、ヒューっと口笛を吹き、
「しまった。他の奴には見せられないな。よく似合ってるよ」
とつぶやいた。
「ありがとう。ねぇ、さっきのネックレス、あなたがつけてくれない?」
箱の中からネックレスを取り出したトニーは、ペッパーの背後から優しくつけた。
灯りに反射しキラキラと胸元で光る宝石を鏡越しに見つめながら、トニーはペッパーの肩にキスを落とすと、
「さぁ、ディナーの時間だ、ハニー…」
と、手を絡ませるように握るとレストランへと向かった。
トニーのエスコートで一番景色のいいテーブルへ案内されたペッパーは、夢のような時間を過ごした。
今日は朝から女の子なら一度は夢見る誕生日そのもの。大好きな人と一日中一緒にいられたし、たくさんのプレゼント…それも、年の数の薔薇の花束と誕生石の指輪とネックレスももらい、おいしいディナーを食べ…。幸せすぎて夢のよう…。
気付けばコース料理も終盤。
何杯目かのシャンパンを飲み干したペッパーに、トニーはニコニコしながら
「まだ食べられるか?」
と尋ねた。
「トニー…もうお腹いっぱいよ…動けないかも…」
お腹を押さえるペッパーにトニーはニヤリと笑いかけた。
「まぁ、そう言うな。この後、しっかり汗をかいて運動するんだから。それよりも…」
トニーが近くにいたウェイターに合図をすると、店内の灯りがややおとされ、それまでクラッシックを生演奏していたピアノからは、定番にバースディソングが流れ始めた。
今日何度目のサプライズかしら…ペッパーが目を丸くしていると、パティシエが目の前にケーキを運んできた。
ハート型のケーキの上は、チョコや飴細工で作られた色とりどりの花やリボンなどで飾られており、一目見てペッパーのためだけに作られたオリジナルのケーキだということが分かった。
「す、すごい!!こんなケーキ、見たことないわ…」
手を叩いて喜ぶペッパーは、中央に飾られたハート型のチョコレートに書かれているメッセージに気付いた。
“Happy Birthday to my better half! You always make me happy, Thank you for your love. I love you Pepper, now and forever. -Tony”
ペッパーの目はみるみるうちに涙で溢れ、頬を濡らした。
「トニー…ありがとう…。いくら感謝してもしきれない…」
ハンカチで涙を拭くペッパーをトニーは嬉しそうに見つめた。
「君の喜ぶ顔が見れたのが何よりのお礼だよ。それに…後で身体を張ってお返ししてもらうからな」
顔を真っ赤にしたペッパーにトニーはウインクすると
「ケーキ食べるぞ。あ、イチゴは私がもらうからな…」
と言いながら、ケーキを頬張り始めた。
部屋に戻り、ジャケットを椅子に掛けネクタイを緩めていたトニーの唇にキスを落としたペッパーは、腕を背中に回し、トニーの胸元に顔を押し付けた。
「ありがとうトニー…すごく素敵なそして完璧な誕生日だったわ…」
トニーはペッパーのひざ下に腕を入れ、抱き上げるとベッドまで連れて行った。
「まだ最後に一つ残ってるぞ…。これがプレゼントの仕上げだ…」
ペッパーをそっとベッドにおろすと、首筋に繰り返しキスをしながら、
「永遠に愛してるよ…ヴァージニア…」
と囁き、身体中にキスを刻んでいった。
ペッパーの中の人の誕生日…ということで、ペッパー生誕SSです。(中の人の誕生日は9月27日表記だったり28日表記だったりしますが、28日設定で書いてます)