(あー!もう!嫌になっちゃう!)
とあるパーティでペッパーはとある男性に捕まっていた。この男性には以前から何度もデートに誘われているのだが、彼のことがどうも苦手なペッパーは毎回丁重にお断りしていたのだ。いつもなら渋々引き下がる男性なのに、この日は酔った勢いもあってか、執拗にペッパーを誘い離れようとしなかった。
「ポッツさん、ほら、俺なら君のことを幸せにできるからさ」
あなたにはそんなことは望んでいませんと、はっきり告げるべきかとペッパーが迷っていると、酒臭い息を吐いた男性はキスをしようと顔を近づけてきた。思わず手に持っていたグラスの中身をぶち撒けると、男性のベージュのジャケットは、見事にワイン色に染まってしまった。
「おい!何するんだ!弁償しろ!」
自分のしたことを棚に上げ、怒り狂い始めた男性は、ペッパーの手首を捻り上げた。
と、その時だった。
「ポッツくん」
いつもよりも遥かに低音だが、この声はトニー・スタークだ。振り返ると、そのトニー・スタークが仁王立ちになっていた。眉間にはあり得ない程皺が寄っており、全身から醸し出されるオーラーはどす黒く、外はいつの間にか雷雨となっており、あまりの迫力に男性はペッパーから手を離すと、その場から逃げ出した。
「ありがとうございます」
窮地を救ってくれたのだ。頭を下げるペッパーに、トニーはふんっと鼻を鳴らした。
「秘書が困っていた。助けるのは、上司として当然のことだ」
じっと見つめてくるトニーの双眸はいつもよりも熱っぽく、その瞳に射抜かれたペッパーは無意識のうちに頬を赤らめた。
そこへ、一人の女性が駆け寄って来た。
「トニー!早く行きましょ!」
彼女は確か数分前までトニーとキスをしていたはず…。ということは、今夜は彼女と過ごすのだろうと、ペッパーはその場を離れようとしたのだが…。
「気分が悪いんだ。帰る」
女性に向かってそう言ったトニーは、ペッパーを抱き寄せると歩き始めた。先程の女性は後ろで何やら叫んでいるが、トニーはさっさと会場を後にすると、建物の外に出た。
「いいんですか?」
豪雨で何も聞こえないため、声を張り上げそう告げると、トニーが何やら呟いた。が、雨の音に消され、その言葉はペッパーの耳には届かなかった。何と言ったのか聞き返そうとしたが、迎えの車がやって来たため、結局その時のペッパーは聞くことができなかった。