再校正中……
「Sherlock Holmes」カテゴリーアーカイブ
It Will Rain(帰還後、ワトホム)
その日は朝から雨だった。
ここ数日、ホームズは探偵業が忙しく、私が起きる前にバタバタと出て行き、日付が変わる頃帰ってきていたので、私たちは同じ家にいながら全く顔を合わせて いなかった。
時計の針が10時を指したのを確認した私は、今晩もホームズは帰ってこないのだろうと思い、そろそろ寝る支度をしようと腰をあげた。
その時、1階の玄関がバタンと閉まる音がし、やけに疲れきった足音を響かせ、ホームズが帰ってきた。
何というタイミングだ。この数日の捜査の話を聞かせてくれるかもしれないと思い、部屋のドアを開けると、雨に濡れやけに青白い顔をした友人の姿があった。
「やあ…ワトソン…ずいぶんと久しぶりだな」
「ホームズ!びしょ濡れじゃないか!早く服を脱いで暖まらないと…」
疲れきった身体を引きずるように部屋に入る友人を手助けしようと手を差し伸ばしたその時、ホームズの身体がぐらりと揺れ、口からは鮮血がほとばしった。
「ほ、ホームズ!!」
倒れる寸前の所で彼の身体を支え、ソファに横たえた。慌てて服を破き身体を弄ると、腹部の深い刺し傷から血がドクドクと流れ出ているのを見つけた。
「おい!ホームズっ!一体何があったんだ!」
「すまないワトソン…少々しくじってしまってね…教授の残党に…待ち伏せされて…すまない…」
荒い息の中、声を絞り出すようにそういうと、ホームズは気を失ってしまった。
「おい、ホームズ!私をおいていなくなるなんて二度と許さないからな!私の腕の中では、絶対に死なせるもんか…」
そうだ、ホームズ。君が私の世界からいなくなると、私の心には永遠に雨が降り続けるんだよ…。
気がつくと明かりが差し込む部屋の中、自分のベッドに寝ていた。あの悪党どもに襲われ、負傷しながらも何とか撃退し、痛みを堪えながらベーカー街の下宿に 這うように辿り着いて、ワトソンの顔を見て…そこからの記憶がないが、どうやら気を失ってしまったようだ。
服を着替え自分のベッドに寝ているということは、ワトソンが手当してくれたようだ。刺された腹部に痛みを感じながら起き上がろうとするが、胸元に温かい重 みを感じ、身動きが取れない。
ふと視線を下げると、我が友人が私の胸元に伏せて眠りこけていた。
「ワトソン、重い…」
眠り込んでいるワトソンの頬を指先で触ると、しっとりと濡れていた。
「泣いていたのか、ワトソン…」
涙の跡を指でそっと拭うと
「ホームズ…私を置いて行くなんて…許さないからな…」
ワトソンの目から新たにひとしずく涙がこぼれた。
ワトソン…君がいる限り、私はこの世に留まり続けるつもりだ。君の心に日差しをさせるのはこの私だけ…。君の心に雨を降らせないために、二度と君を残して いなくなったりしないよ…。
ワトソンを起こさぬようベッドから抜け出すと、カーテンを開けた。
雨は止み、暖かい日差しが私たちを優しく包み込んでくれた。
帰還後。タイトルはBruno Marsの”It will rain”から。何気にワトホムソングだと思っております^_^;
こわれゆく世界の中で(SH2後、ワトホム)
ホームズ…君はあの最期の瞬間、なぜ微笑みだけを私に遺していったんだ?
ベイカー街の下宿。この部屋の主がいなくなって早3ヶ月。
全てを飲み込んだ滝壺からは何の痕跡も見つかっていない。
それでも、いつでも帰って来られるように残しているんです…というハドソン夫人の言葉に、ほんのひとかけらの希望を抱いて、気がつけば私は往診の帰り道、部屋を見上げるのが日課となっていた。
往診帰りの夕方、いつものようにベイカー街の下宿を見上げると、部屋の中で何かが動いた。
ホ、ホームズ⁉
まさかそんなはずはない…いや、彼のことだから私を驚かせるためにこっそり帰ってきて、何食わぬ顔をしていつもの椅子に座っているのでは⁈
ありえもしない幻想と思われるかもしれないが、私は階段を一気に駆け上がるとあの懐かしい下宿のドアを開け叫んだ。
「ホームズ!いるのか!」
彼の個人的な研究のためジャングルさながらだった部屋は、キレイに片付けられ―それでいても彼の存在が感じられるようにそこそこ散らかってはいるが―私を迎え入れてくれるのは、もはや静寂のみだった。あぁ、やはり私の幻想だ。
いつまでも未練たらしい・・・彼の幻影を払いきれない自分自身が情けなくなり、ガックリと膝をついた。
ふと膝元を見ると何か見覚えのある物が落ちていた。ホームズと最後に過ごしたあの日、彼がからかい様にはなってきた吹き矢だ。
手に取ると、この3カ月間胸の内に蓋をして、おのれすら開けることのできなかった様々な思いが込み上げてきて、私は彼を亡くしてから初めて声をあげて泣いた。
「今、幸せか?」
ひとしきり涙を流した後、壁の中から彼の声が聞こえた気がした。
なぜあの時、彼に「幸せか?」と聞かれたとき、本心を語らなかったのだろう。
いくら私が結婚して別の家庭を築こうとも、私の隣には彼がいるはずだと過信していたからなのか?
「ホームズ…君なしの人生こそつまらないものはない。よくも私を置いて逝ったな。覚えてろよ…」
泣き顔を見られた気がして、涙でぬれた顔を袖口でこすると私は立ちあがった。
「いつまでも前に進まないなんて君らしくないぞ、ワトソン」
外に出ると生温かい空気とともに、どこからともなく花の香りが漂ってきた。
季節はすっかり春だ。
ホームズ、今日は君がいなくなってから初めて世界が色づいて見えたよ。
ライヘンバッハ後のワトソン独白。タイトルはワトソンの中の人の映画ですが、内容は関係ありません(汗)