Keep the promise…

石をあるべき場所に戻したスティーブは、ふと考えた。
これから自分がどうすべきかを…。
その時、思い出したのは、トニー・スタークの姿だった。
トニーがあの5年間、自分の人生を生きたように、今度は自分も人生を生きてみよう…。
そう考えたスティーブは、2度目の人生を生きる決意をした。

ペギーの元に戻ったスティーブは、自分の人生を生き始めた。
勿論、ペギーには自分は未来から来たスティーブ・ロジャースであることを話した。この時代の自分は、まだ氷の中で眠っていることも…。
最初は半信半疑だったペギーだが、結局はスティーブの話を信じてくれた。
これから起こることを全て知っているスティーブだったが、未来に干渉しないように、彼は自分の存在を出来るだけ隠して生きることにし、ペギーもそれに賛同してくれた。

ペギーと結婚したスティーブは、2人の子供に恵まれた。
が、彼らが成長する過程で、スティーブはいつもトニーを思い出した。
あの時、トニーはどんな思いで指を鳴らしたのだろうか…と。
妻と小さな娘を残し、トニーはどんな思いで死を覚悟し、世界を守ったのだろう…。
そして自分の子供たちの姿を見る度に思った。自分の娘の成長を見届けることができなかったトニーは、さぞかし無念だっただろうと…。

あの時、『なるべく死なないこと』…それがトニーが戦いに参加する上で出した条件だった。
それなのに、自分はタイムスリップする前に、『何を犠牲にしても…』と告げた。トニーは一瞬、悲しそうな顔をして自分を見つめていたことを、スティーブはふと思い出した。

「スティーブ…」
我に返ると、ペギーがいた。目を真っ赤に腫らしたペギーは、泣きながら夫に抱き付いた。
「どうしたんだ?」
泣きじゃくるペギーに、スティーブはカレンダーを見た。
今日は1991年12月16日…。つまり…。
「ハワード…」
ポツリと呟いたスティーブに、ペギーは小さく頷いた。
未来に干渉してはいけないことは分かっている。だが、スターク夫妻は殺された。一人息子のトニーを残し…。
「アンソニーが…。あの子…見ていられないくらい荒れてて…。だから…今日だけは、あなたのこと、嫌いになってもいい?」
「あぁ…」
スティーブもトニーの元に行きたかった。だが、今はまだ出会ってはいけないのだ。
静かに涙を流したスティーブは、黙って妻を抱きしめた。

***

それから幾年の時が過ぎた。
毎朝年老いた自分の姿を見る度に、スティーブはトニーと自分を重ねた。自分は人生を全うした…。幸せな人生だった。最愛の女性と結婚し、数十年寄り添うことができた。だがトニーは…。

TVでは、ソコヴィアでの戦いを繰り返し報道していた。あの協定の…そしてアベンジャーズが分断することになった戦い…。
あの時、ほんの少しでもトニーを信頼していれば…数年後に起こる出来事は違う結末になっていたのだろうか…。そしてトニーは命を落とすことはなかったのだろうか…。
未来を変えないよう干渉せずに生きてきたが、後悔しかなかった。
だからこそ、トニーを救う…そんな未来を一つでも自分の手で作りたかった。

ペギーはそんな夫の心中を十分理解していた。そのため、自分の死期が近いと悟ったペギーは、スティーブに告げた。
「行きなさい、スティーブ…。あなたは何をすべきか…分かってるでしょ?」
夫の手を握ったペギーはニッコリ笑った。
「私は大丈夫…。あなたと人生を歩めた…。叶わないと思っていたことが叶ったんだから…。最高の人生だったわ…。だから…あなたはあの子を救ってあげて…。あの子に…アンソニーにも…あなたのように幸せな人生を送らせてあげて…。約束よ…」
スティーブはペギーの手を握りしめた。そして最愛の女性に別れのキスをしたスティーブは、クローゼットの中にしまっていたピム粒子とそしてキャプテン・アメリカの象徴の盾を取り出した…。

***

スティーブは2023年の世界にいた。
目の前にはあの湖畔の家…そしてこの時代の自分が帰って行くのが見えた。
トニー・スタークは家の中にいるのか、姿が見えなかった。いきなり訪問しても驚かれるだろうと、スティーブはトニーが出てくるのを待つことにした。

しばらくして、小さな女の子が家から出てきた。モーガンだ。そしてその後からペッパーも出て来た。2人は庭で花の手入れをし始めた。と、トニーも出て来た。彼は妻と娘には加わらず、デッキの椅子に座り込んだ。トニーが一人になった今がチャンスだと、スティーブはゆっくりと彼に近づいた。
「トニー…」
呼びかけると、トニーが顔を上げた。一瞬目を丸くしたトニーだが、目の前にいる男性が誰だか分かったのだろう。顔を顰めたトニーはふんっと鼻を鳴らした。
「さっき見た時より、随分老けたな」
「君がタイムトラベルの装置を完成させた結果だ」
微笑んだスティーブに、トニーも頬を緩めた。
「成功したのか?」
「あぁ…」
頷いたスティーブに、トニーは何度か深呼吸をすると、恐る恐る尋ねた。
「その…坊やも無事なのか?」
「あぁ。君が…命を懸けて…世界を救うんだ」
「そうか…」
スティーブの言葉に、自分の結末を悟ったのか、目を潤ませたトニーは視線を上げた。その先には、ペッパーとモーガンがいた。2人を見つめたトニーの目から小さな涙が零れ落ちた。
トニーの目の前に座ったスティーブは、思わず彼の手を握りしめた。
「トニー、君のおかげで、私は二度目の人生を謳歌できた。だから君に礼をさせてくれ。これから言うことを信じてくれ」
真剣なスティーブの眼差しに、涙を拭ったトニーは頷いた。
「分かった」
トニーの手を軽く叩いたスティーブは、話し始めた。
「君たちはタイムトラベルに成功する。そして思い描いていた通りになる。が、タイムトラベルの装置を利用して、サノスがやって来る。2014年の世界から大軍を引き連れて…。そうなる前に止めるんだ。詳しくは説明できない。だが、これだけは言っておく。タイムトラベルから戻って来たネビュラは、君たちの仲間の彼女ではない。彼女が装置を利用し、サノスを連れてくる。だから…」
言葉を切ったスティーブに、ある程度状況を理解したトニーは頷いた。
「分かった。ありがとう、スティーブ。来てくれてありがとう」
スティーブの手を握り返したトニーは、それ以上何も言わなかった。そして彼の手を離したトニーは、妻と娘の元に向かった…。

数日後。
過去からストーンを集め、トニーたちはガントレットを完成させた。
誰が指を鳴らすか相談し、ハルクが鳴らすことになった。
ふと見ると、ネビュラがいなかった。スティーブの話を思い出したトニーは、仲間に向かって告げた。
「指を鳴らす前に、私を信じて、ちょっと付き合ってくれないか?」
そう言うと、トニーはアーマーを装着し部屋を出て行った。
顔を見合わせた他のメンバーたちだが、トニーはいつになく深刻な顔をしていたので、ハルクをガントレットの見張り番として残すと、慌てて後を追った。

トニーがタイムトラベルの装置の置かれた部屋に向かうと、ネビュラがいた。
スティーブが言ったことは正しかったのだ。
装置を弄っているネビュラに、仲間がやって来たのを確認したトニーは武器を向けると声を掛けた。
「それを起動させて、サノスを呼ぶつもりか?2014年のネビュラ?」
トニーの言葉に仲間たちは目を丸くした。彼女はどこをどう見ても、ネビュラなのだから…。
「おい、トニー。どういうことだ?」
ネビュラと共にタイムトラベルをしたローディは、思わず親友の肩を掴んだ。
「あれは2014年の世界のネビュラだ。確かな筋からの情報だ」
スティーブをチラリと見たトニーは、マスクの下で小さく笑みを浮かべた。
自分がしようとしていることを見抜かれたネビュラだが、彼女も負けていなかった。
「2014年の私だと?くだらないことを言うな!」
が、トニーは少しづつ距離を縮めながらネビュラに告げた。
「では、答えろ。5年前、君と2人でゲームをしただろ?ゲームの名前は?」
ネビュラは焦った。2023年の自分の記憶を見た時には、こんな男の存在など見た覚えはなかったのだから…。
「お前とゲームなどというくだらないことはしていない!」
ネビュラが武器に手を掛けた。それが、彼女が2023年のネビュラではないという証拠だった。
「冷たいな。22日間も2人きりで宇宙を漂流した仲だろ?」
肩を竦めたトニーだが、それを合図とするように、仲間は一斉にネビュラに飛びかかった。
いくらネビュラが戦い慣れていると言っても、相手が多すぎた。彼女はあっという間に拘束された。

サノス襲来の危機も回避され、ハルクがストーンを使ったことで、5年ぶりに人々は戻って来た。
勿論、消えた仲間も戻って来た。
「スタークさん!」
懐かしい声に振り返ると、ピーター・パーカーが駆け寄って来た。5年前腕の中で消えてしまった少年は、何やら興奮気味に話し続けていたが、感極まったトニーは彼を黙って抱きしめた。
と、ストレンジが目の前に現れた。ピーターから身体を離したトニーは、ストレンジに尋ねた。
「これがお前が見た、たった1つの方法だったのか?」
が、ストレンジは首を振った。
トニーが命を捨て、ストーンを使う…それがストレンジが見た、たった1つの方法だったのだから…。
「いや、これは奇跡が起きた結果だ」
トニーに向かってストレンジは微笑んだ。そして彼は頷いた。まるで、これからは自分の人生を楽しめというように…。

***

トニーは家に戻った。
タイムトラベルをする前日、最後かもしれないと、妻と娘に向けてのメッセージを吹き込んだ。だが、時を超えてやって来たスティーブ・ロジャースのおかげで、生き延びることが出来たのだ。
トニーが車から降りると、レスキューのヘルメットを被ったモーガンが駆け寄って来た。
「パパ!おかえり!」
「ただいま、モーグーナ。いい子にしてたか?」
「うん!」
娘を抱き上げたトニーはヘルメットを取ると、彼女の頬にキスをした。
「モーガン、これはママのだぞ?勝手に持ち出すな」
「はーい」
目をくるりと回したモーガンだが、ふふっと笑みを浮かべると父親にキスをした。
「お帰りなさい、トニー」
夫の無事な姿に、ペッパーは安心したように息を吐いた。
「ただいま、ハニー」
モーガンを下ろしたトニーは、妻をギュッと抱きしめた。

『大義のために、個人の幸せを諦める必要はない』
トニーは父親の言葉を思い出した。あの時父親は、何気なしに発した言葉だったかもしれない。だが、こうやって命を救われた今、その言葉はトニーの胸に深々と刻み込まれていた。

妻と娘と自分の幸せだけを考えて、これからは生きて行こう…。
これからは、アイアンマンとしてではなく、トニー・スタークとして、残りの人生を謳歌しよう…。

大切な2つの存在を抱きしめたトニーは、あの日やって来たスティーブの姿を思い浮かべると、そう誓った。

***

数日後。
スティーブがストーンを過去に戻しに行くことになった。
トニーも立ち会った。もしかしたら、あの時のスティーブに再会できるかもしれないと感じたから…。
「おい、じいさん。元気でな。気をつけて…」
まるで別れのような挨拶に、サムとバッキー、そしてハルクは怪訝そうな顔をした。が、スティーブはトニーに向かって笑みを浮かべた。
「あぁ、トニー。元気で…」
スティーブの姿が消えた。が、彼は戻って来なかった。
装置の故障かと、ハルクは慌てているが、ふと視線を上げたバッキーが何かに気づいた。
そこにいたのは、あの時の…年老いたスティーブだった。バッキーがサムの背中を押した。スティーブに歩み寄ったサムに、スティーブは盾を渡した。キャプテン・アメリカの未来をサムに託したのだ。

スティーブが一人になると、トニーは彼に近づいた。
「やぁ、トニー。上手くいったみたいだな」
スティーブが微笑んだ。
隣に腰掛けたトニーはスティーブに向かって頭を下げた。
「礼を言わせてくれ。命を助けてくれて、ありがとう。君のおかげで、ペッパーとモーガンと…これからもずっと生きていける…」
頭を下げ続けるトニーに、スティーブは首を振った。
「この間も言ったが、礼を言うのは私の方だよ、トニー。君のおかげで、私は夢が叶ったんだから…。きっとさっきタイムスリップした私も、これから自分の人生を楽しんでくるだろう…」
顔を上げたトニーに、スティーブは笑みを浮かべた。
「私の役目は終わったんだ」
深呼吸をしたスティーブは、身体を伸ばした。
「それは私もだ。世界の平和は、あいつらに託すよ」
サムとバッキーをチラリと見たトニーは、スティーブの手を握った。
「もう一度礼を言わせてくれ。ありがとう、スティーブ。本当にありがとう…」
何度も礼を言ったトニーは、スティーブと固く握手すると、その場を後にした。

その後ろ姿を見つめながら、スティーブはペギーを思い出した。
「君との約束…果たせたよ、ペギー」
空を見上げたスティーブは、雲の向こうでペギーが微笑んだのが見えた気がした

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